関連書籍の紹介

 徳島エンゲル楽団の活動は、第一次世界大戦時のドイツ兵俘虜と徳島の人々との友好の歴史に基づいています。その歴史を紹介する書籍は数多くあります。専門的な研究書やノンフィクションの本もありますが、ここでは、このホームページ管理者(カクさん)が徳島エンゲル楽団のブログ記事に書いた文章を元に、一般的読者に向けて書かれた解説本や小説などを紹介します。とりあえず、ブログからそのままコピーします。もしかしたら後で手を加えるかもしれません。

 

奇蹟の村の奇蹟の響き (2011.5.11 徳島エンゲル楽団のブログ掲載)

 

 徳島エンゲル楽団は、第一次世界大戦時に板東俘虜収容所のパウル・エンゲル氏が徳島の若者たちに西洋音楽を指導してオーケストラを作ったという、戦争中とは思えない奇蹟のような事実を記念して演奏活動をしています。当時の板東俘虜収容所の様子や、ドイツ兵俘虜による音楽活動は、映画「バルトの楽園」で見事に描かれていますが、映画のほかに、小説もいくつかあります。その中で、今回は秋月達郎著「奇蹟の村の奇蹟の響き」(PHP出版)を紹介します。
 この小説は、バルトの楽園と同様、実話を元にしたフィクションですが、歴史的な事実の重要な部分はきちんと再現されています。物語は板東俘虜収容所が忘れられた第二次世界大戦後から始まり、時代をさかのぼって「バルトの楽園」の冒頭と同じ青島の戦いの場面に移ります。そして、個性的な主人公と実在の人物を含む魅力的な登場人物たちの生き生きとした姿を通して、ゆっくりと時代を下りながら現在の日独友好親善の復活に至るまでの長い道のりが表現されています。架空の人物と実在の人物が混在しているほか、さまざまな脚色がほどこされているようですが、「第九」日本初演の地で起こった奇蹟とも言える敵味方を越えた人々の交流の本質的な部分は事実であり、後世に伝えるべきすばらしい歴史と言えます。
 奇蹟の「響き」というのは、もちろんこの小説でも音楽が中心的な位置を占めていることを示しています。ドイツ兵俘虜のオーケストラの演奏を当時の人々が驚きを持って受け止めたこともよくわかります。また、大正時代の徳島エンゲル楽団も何度も登場します。実在人物の立木真一さんたちがエンゲルさんの指導のもとで熱心に練習を行った様子が目に浮かぶような文章で見事に描かれています。たとえば、スペイン風邪の影響で俘虜たちが収容所から外出できなくなった時、せっかく教えた演奏技術を忘れてしまうのを心配するエンゲルさんを慰めようと、楽団のメンバーが収容所の塀の外に集まり、立木さんの指揮で自分たちの練習成果を演奏して聞かせる場面など、印象的な場面がいくつもあります。
 単に実話を忠実に記録したものではなく、個性的な魅力を持つ登場人物たちを作り出し、物語の主役として実在人物と組み合わせたことで、リアリティを保ちながら楽しく読める構成になっており、何度も読み返したくなる感動的な小説です。「バルトの楽園」で描かれた時代だけではなく、その後の鳴門市民によるささやかな行動から始まった元ドイツ兵俘虜との交流の復活、そして日独双方の友好使節団が行き来して親善を深めている現在までの長い歴史も含め、私たち現代の徳島エンゲル楽団が演奏活動を通して伝えたいことのすべてがこの小説に含まれているように思います。ぜひご一読をお勧めします。

「第九」と日本 出会いの歴史 (2011.9.25 徳島エンゲル楽団のブログ掲載)

 

書店の音楽書のコーナーを見ていて、徳島エンゲル楽団に関連の深い新刊書を見つけましたので、早速ご紹介します。「第九と日本 出会いの歴史ー板東ドイツ人俘虜収容所の演奏会と文化活動の記録ー」
(ベートーヴェンハウス・ボン編, ニコレ・ケンプケン著, ヤスヨ・テラシマ=ヴェアハーン訳, 大沼幸雄監訳, 2011.9.20, 彩流社, ISBN9784779116544)
$徳島エンゲル楽団のブログ-book

 この本の紹介の前に、まずエンゲル楽団Mの個人的な話ですが、インターネットで板東俘虜収容所でのドイツ人俘虜の音楽活動について調べていたときに、ボンのベートーヴェン生家が博物館になっていて、2009年に第九日本初演に関連して板東俘虜収容所の特別展を開催していたことと、その内容がインターネットで公開されていることを知りました。当時の俘虜が帰国の際に持ち帰った大量の資料が現在もこのベートーヴェンハウスに保管されているそうです。興味深い写真が多数掲載されていましたが、全部プリントするのはちょっと手間がかかるし、今のところいつでもアクセスして読むことができるみたいだし、ということで、時々思い出しては眺める程度でした。しかし、こういうオンラインの情報は、いつか突然消えてしまうことがあるので、かなり不安もありました。何か調べようとしたときに、このサイトがなくなっていたらどうしよう、と考えて、そのうち全部のページを何とか保存する手はないかと考えていました。

 そう思っていたときに発見したこの「第九と日本 出会いの歴史ー板東ドイツ人俘虜収容所の演奏会と文化活動の記録ー」という本は、まさにその展示内容を中心に、さらに新しい資料も加えて多数の写真で当時の様子をまとめたものです。いつの間にか消えてしまう心配がない印刷物として、しかも改訂された日本語訳までついて入手できたので、たいへんうれしく思いました。ベートーヴェンの記念館が編集したものなので、当然ながら音楽活動、特にベートーヴェンのどのような曲が当時演奏されたか、どの曲が日本初演であったかなどの興味深い話が書かれています。また板東以外に久留米など他の収容所でも多くの演奏会が開かれ、ベートーヴェンの交響曲のいくつかが日本初演されたことなども紹介されています。久留米では交響曲第8番や、のだめカンタービレで最近人気が急上昇した交響曲第7番などが日本初演されたそうです。ベートーヴェン以外についてはあまり記載がありませんが、これは仕方ないことでしょう。

 先日のブログで第九をドイツ兵俘虜たちが取り上げたことに特別な意味を感じるということを書きましたが、この本の監訳者もあとがきで「このとき、この地で第九が初演されたのは決して偶然の出来事とは思われない」と述べています。まったく同感です。ベートーヴェンハウスにおけるこの展示には「音楽の力」という題がつけられていました。ベートーヴェンの音楽の力、時代を超え、地域を超え、あらゆる人の心に響く影響力の大きさを、実例で示したものと言えます。

 さて、この本で私が特に興味を持ったのは、エンゲル氏の自筆の手紙です。終戦によって解放された俘虜たちは、それぞれ帰国したり他の国に渡ったり日本にとどまったり、さまざまな道を歩んだそうですが、エンゲル氏については、今までそれほど多くの情報を得ることはできませんでした。この本に紹介されている手紙は、東京赤坂のラントグラーフという人物宛で、南満州鉄道への就職の世話になったお礼と、その就職活動が不成功に終わったことの報告から始まり、自身の経歴として、板東で45人のオーケストラの指揮者として活動していたことを述べて、東京音楽学校のクローン教授(その数年後に日本人オーケストラによる第九の初演を指揮した人物)に東京での職を紹介してもらえる可能性を尋ねるなど、その後の生活を模索するエンゲル氏の姿がよくわかります。残念ながら、この手紙の後のエンゲル氏の動向については書かれていなくてわかりませんでしたが。

 さらに、あとがきまで読んで、初めてベートーヴェンハウスの展示内容が翻訳されてこの本ができた経緯を知ることができました。それは上記のエンゲル氏の手紙がきっかけだったそうです。監訳者である大沼さんは、切手収集が趣味で、特にベートーヴェンに関連する切手やそれに関係のあるさまざまなものを収集していました。板東俘虜収容所に関連する切手や手紙などを探していて、偶然エンゲル氏の手紙をオークションで入手したそうで、それがこの本の発行につながったと述べています。ベートーヴェンハウスの展示も非常に興味深いものですが、このような貴重な資料が追加掲載されたものが日本語でカラー写真満載の資料とともに発行されるのは、私たちエンゲル楽団の活動にとっても、鳴門市ドイツ館やドイツ村公園、バルトの庭などの板東俘虜収容所の歴史に関する施設にとっても、たいへん意義深いことだと思います。一番うれしかったのは、表紙に当時の徳島エンゲル楽団の写真が使われていることです。ちょうど帯がかかっていてしばらく気づきませんでしたが、このブログに載せるために写真を撮ろうとして帯を外して初めて気づきました。カラー図版が多いためか少し値段が高めですが、ぜひ多くの皆さんに読んで頂きたいと思います。

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2012年3月8日

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